債権差押えが競合した場合とは
こんにちは、税理士の的場です。
税理士試験の試験科目に、国税徴収法という試験科目があります。
資格の学校には、ドラえもんみたいな人気講師(N先生)がいらっしゃいました。
近年では、試験傾向が他科目に比べると安定しており、人気がある科目です。
普段の生活においてあまり馴染みのない国税徴収法ですが、明治時代に制定された歴史ある法律です。
国税徴収法は、国税の徴収だけではなく、地方税の徴収や社会保険料といった公課の徴収に関しても広く準用されています。
つまり、租税と公課に関する基本的な法律だといえます。
税理士試験の科目の国税徴収法では、民法や国税通則法が大きく関係してくるため、幅広い知識が必要になるといえるでしょう。
加えて、国税徴収法は法律で決められた内容をいかに具体的に実行するかが定められているため、「手続法」ともいわれています。
債権回収のために強制執行を申し立て、債務者が有する債権(銀行預金など)を差し押さえたとしても、他の債権者による差押え等と競合する場合があります。
他の債権者との競合が発生した場合、ご自身の取り分が減ってしまう可能性があるので注意が必要です。
債権の差押えと競合する他の債権者による手続きには、いくつかのパターンがあります。
競合する手続きは、「一般債権者による差押え等」と「税務署などによる滞納処分」の2つに大別されます。
一般債権者による差押え等と競合する場合
一般債権者による差押え等と競合するケースでは、差押え等の先後にかかわらず、債権額に応じて按分的に配当が行われます。
競合し得る手続きの種類は、「差押え」「仮差押え」「配当要求」の3つです。
①差押え
強制執行手続きの一環として、債権の弁済を禁止する処分です。
②仮差押え
民事保全手続きの一環として、債権の弁済を禁止する処分です。
③配当要求
先行する他の債権者による強制執行(差押え)の手続きに参加して、債権額に応じた配当を要求する手続きです。
税務署などによる滞納処分と競合する場合
先に差押えがなされている債権について、税務署などにより、租税債権等に関する滞納処分が行われるケースもあります。
このパターンが税理士試験の「国税徴収法」によく出てきます。
この場合、税務署長等が裁判所に対して「交付要求」を行ったものとみなされます(滞納処分と強制執行等との手続の調整に関する法律36条の10第1項)。
「交付要求」とは、裁判所が実施する配当手続きの中で、租税債権等についても配当を行うように要求することをいいます。
なお、国税および地方税については、一般の債権よりも優先的に徴収するものとされていますので(国税徴収法8条、地方税法14条)、配当手続きにおいても一般の債権に対して優先されます。
つまり、先に債権を差し押さえていたとしても、後から税務署などが同じ債権に対して滞納処分(交付要求)を行ってきた場合には、税務署などに債権の回収を譲らなければならない点に注意が必要です。
まとめ
債権の回収が滞った場合、訴訟などを経て、最終的には強制執行(差押え)の手続きにより回収を図る必要があります。
強制執行に至るまでには、訴訟における債権の立証などを適切に行い、さらに強制執行を裁判所に申し立てなければなりません。
いったん預貯金債権などを差し押さえたとしても、別の債権者による差押え等や、税務署などによる滞納処分が競合してしまうケースも考えられます。
債権の支払いを滞らせた債務者は、多重債務の状態に陥っている可能性が高いため、このような競合が発生することも想定しておかなければなりません。
債権者が、他の債権者や税務署などとの競合を阻止することはできませんが、少しでも競合の可能性を低くするためには、訴訟・強制執行の手続きを迅速にとることが大切です。